8位: ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質
評価
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予測できないもの(Black Swan)の本質的な理解を促す啓蒙的な著,
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資本主義社会の富の源泉であるマーケットを相手に不確実性(リスク)の管理を稼業にしてきた
元デリバティブトレーダーの社会科学批判の思索の著であり、知的刺激に満ちた非常にThought-provokingな本です。
社会科学は、経済事象を数値化、定量化し、導き出された数値モデル(帰納法による理論化)を用いて経済事象を説明、予測するものですが、
懐疑的実践主義者の立場から社会科学の権威、理論および常識(おもに経済学、哲学)を徹底的にこきおろしています。
主なターゲットには、「リスクー神々への反逆」で記述されているような、今日のビジネススクールで常識とされるファイナンス理論も含まれます。
この本を通じて、社会科学の理論や公式(Formula)の限界を認知学、心理学等様々な分野から、かなり深く理解することができます。
著者の言葉を借りれば、その理論を知っていてもその限界の本質を深く知らなければ、現実をみるのに不自由になっており、
だからこそ、Black Swan(予測できないこと)がやってくるのだと。
たとえば、数値化されたモデリング、因果と結果を示す法則には、その美しさゆえ、その絶対性を過大評価し、
例外(Black Swan)を過小評価しがちであることを指摘し、その背景にある人間の認知の特性について言及しています。
「XXがある」という証拠がないことを「XXがない」という証拠があることに履き替える
わかっていることを過大評価し、わかっていないことを過小評価する等
著者の想定する読者は、一般的なビジネスマン(主に金融、MBA)だけではなく、哲学者や経済学者を相手にしている面や
(実践主義者として学者と論争してきた内容が本となっているため)、翻訳の関係もあり、読みにくいとこともあります。
しかし、17章、18章、用語集(下巻)は必読。経済学者や哲学者との対比で著者の持論とリスク(Black Swan)に対する意見を記載しており、
1章から読む前にこの2章と用語集を先に読んだほうが読みやすいと思います。
Black Swanの本質の理解のため、著者はいろいろな事例をあげていますが、たびたび言及しているLTCMの事例が、個人的には最も興味深かったです。
LTCMは、オプションプライシングモデルであるあの有名なブラックショールズモデルを発表した
ノーベル賞経済学者であるマートンとショールズが参画した巨大ヘッジファンドですが、
ノーベル賞経済学者だけでなく、元FRB副議長や伝説のトレーダーが関与し人類最高の頭脳が集まっていた史上最強のヘッジファンドといわれ、
理論を実際のマーケットで実践した結果、一時は驚異的なリターンをあげたものの、アジア通貨危機、
ロシア危機を予測できなかったことにより(モデルの想定外の事象:Black Swanが出現)、1998年に破綻し、
世界恐慌のトリガーを引きかねなかった事態を重く見た当局により最終的に救済されました。
このLTCMの栄光と崩壊の原因について、ファイナンス理論の限界だけでなく、
本質的には著者の主張するBlack Swanの存在を疑う懐疑主義(Skepticism)の欠如があり、
自分の知っていることばかり焦点をあて、モデルにないものは無視しがちで、結局モデルの内側からしか世界を眺めていなかった
というBlack SwanのImplicationから考察する視点は非常に示唆に富んでいると思いました。
Black Swanは予測できないがゆえに理論には織り込めないものの、著者は理論の存在の全てを否定し完全な懐疑主義を主張しているわけではなく、
理論を適切に利用し、Black Swanに対する適度な懐疑心をもちBlack Swanを利用することを説いています。
Black Swanの性質を例示とともにBlack Swanが潜む「果ての国」とBlack Swanが重要ではない「月並みな国」とに分類し、
「果ての国」では、よいBlack Swanに会えるかもしれないが、悪いBlack Swanに遭遇かもしれない可能性を説明しています。
投資戦略でいえば、投資ポートフォリオの8割近くは「月並みな国」でそこそこのリターンを確保し、
2割弱は、「果ての国」のよいBlack Swanに会うことにより高いリターンを確保する「バーベル戦略」を主張しています。
Black Swanは予測できないがゆえにBlack Swanなのであり、この予測できないことへの対応は、
知識および経験に基づく高度な理論の発明や真実の解明で改善されるものではなく、
Black Swanの本質の理解こそが鍵であるというパラダイムシフト的な視点を提供するものでした。
ノーベル経済学賞とは逆説的ですが、再読、再々読の価値のある非常に重要な本です。
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