3位: 嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)
評価
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三色に塗り分けられたかつての同窓生、そしてロシア国旗
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米原万里氏の死は早すぎた。世界は社会主義の崩壊を見た多感な少女の目線を永遠に喪った。
「リッツァの夢見た青空」「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」「白い都のヤスミンカ」
この三色は、ロシア国旗の色では、「忠実」「勇気」「高潔」を表す(意味には諸説ある)。
祖国ギリシアに強い憧憬と望郷の念を持っていたリッツァは、ドイツで暮らしている。
故郷は遠くに在りて想うもの。帰ってみれば、相容れない習慣や価値観がある。
異国でも、自分を必要とする人や、忠実な友がいる。彼女はそれこそを故郷とする。
そして、たとえ今いる場所が曇り空でも、確かに故郷の青空と繋がっているのだ。
衛星放送のアンテナが、力強くそれを証明する。
ルーマニア人のアーニャは嘘をつき、その嘘を自ら信じ込む。矛盾や相違は見ないふり。
というより見えない。知識は彼女に新たな目線を与えるものではなく、目隠しにだけ利用される。
「国境なんて意味がない」と言いながら、「私の中のルーマニアは10%、90%はイギリス」などと、
国境に縛られまくりの発言をする。自分の恵まれた環境を自覚せず、母国の遅れを蔑む。
著者は心中の異議を口にしない。アーニャには現実を見る勇気が無いから。
嘘で塗り固めた幸せでも、アーニャは曲がりなりにも幸せなのだ。
ユーゴスラビア出身のヤスミンカは、聡明で達観した少女だった。客観性を、恥の意識を持つ稀有な少女。
著者と少数派である悩みを打ち明け合い、無二の親友になる。
社会主義から冷遇された母国は、更に国家の分断、民族や宗教という寸断に晒される。
しかし彼女は、大統領の娘という立場に対する逆差別と闘いながらも、己の信念によって高潔に生きる。
結局、国家や民族や宗教を形作るのは、個人なのだ。少なくとも根本的には、個人である筈だ。
ソビエト学校という組織の中において、多種多様な人物に邂逅した米原氏。
それらの細かなエピソードを掬い取り、この作品にまで仕上げた鋭く柔らかな感性。
あまりにも早く、その目は閉じられた。しかし彼女の作品は、永遠に人の胸を打つ。
「ロシアでは才能はみんなのもの。妬み引きずり下ろすものではない」
世界中の国々が、人々がこうであったら、人類はもっと早くより良い世界に住めるだろう。
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